透けるような空色をみると、晴れやかさと比例して辛さも増した。

それは偶然と言えば偶然だった。
たまたま探していた奴らが居たから向かった先に、空色の奴がいた。
真っ白な衣を鮮やかなアカに染めて、息も絶え絶えにそいつは居た。
奴らを蹴散らして、残った場所には空色がいた。

楽にはなりたいが、死ねない

今にも死にそうな風体で、そいつは言う。
その目は、アカとアオをしていて、どこか惹かれた。
助けたのは気まぐれだったかと問われれば、そうなのかもしれない。
ただ、目の前で死なれるのは真っ平だった。
嫌だった。
目の前で死なれるのは。
ぐるぐると、一瞬で何かが過ぎった。

それで、「空色」を助けた。

受けた傷は酷かったが、見た目以上にそいつは回復力があったように思う。
抉られた場所は痛々しいものだったが、日を重ねるうちに回復していった。
怪我の治療法も、一通りは身につけていたのが、役立った。
自身で手当てをしなければならない事も多々あったし、過去にそういった手解きを本格的に叩き込まれたのも関係してるのだろう。
あの頃の経験は、充分すぎるほど、自身の中で活きている。

「空色」を見ていたら、不意に彼を思い出した。

でも、彼は彼じゃない。そうやって否定してる。
ちゃんと己の目で、感覚で確かめたのだから、間違いない。
彼は彼じゃない。
日を追うごとに、気付かされる、己の事実。

いつまでも過去を引きずっている自分に、嫌でも気付く。

過去は過去だと、切り離せればいいのに。
それでも、二年前は思った以上に近すぎた。
己の中でなにも片付いていないのが現状で、目を背ける事で今を生きている。
背けて、背けて、背け続けて…一体いつになったら受け入れられるんだろうか。
過去に飲まれかけることはしばしばあった。
逃げる事が出来ないから、背ける。
夢にまで見る。その時は決まって額と左手が疼いた。

「空色」は言った。
名前は無い・と。

屈託無く、少し申し訳なさそうに苦笑するものだから。
その仕草が、少し似ていたから。
多分、もうきっと、口にすることは無いだろうと思ってた―

「かざみ」

その言葉は、思いのほかすんなりと口から出てきた。
そして、すんなりと「空色」に馴染んだ。
「かざみ」と聞いて、少し驚いて、嬉しそうに笑った。

もう聞くことも、口にすることもないと思ってた。
過ぎ去った過去を、象徴するものだと、いつまでも己の中で燻っていた。
いい加減、けじめをつけなければと、どこかで思っていた。
その、キッカケになればと、どこかで願った。

「カザミ」
「何です?」

「空色」はいつの間にか「カザミ」になっていた。
それでいい。
消えていくよりは、こうして、残したい。
過去として、埋もれてはいけないのだと、どこかでわかっていた筈だ。
気付けば、「カザミ」と呼ぶ人は増えた。
それでいい。
「空色」が、「カザミ」として生きてくれるなら。

いつか 自分が過去を受け入れられる気がしてきた。


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日記に載せていたもの。多少手直ししてます。
どこか何かが煮え切れないロウ。時系列的に序章ぐらい。