05 // 「待ち受けはきみの写真です」
メールが届く。離れた場所の貴方から。
『From 遠月雛恵』
中学の二年辺りから付き合い始めた彼女。
小柄で、愛らしい人。
休日にはなるべく会いたい。一緒にいたい。
そう、思うのは彼女ぐらいだった。
過去に何人か付き合ったことがあるが、ここまで長くは続かなかった。
何となく、わかってしまう事がある。
こんな感覚も、彼女だけだった。
だからこそ、メールという文字の羅列ではなく、彼女の声が聞きたかった・というのが本音。
「久しぶりだね」
『うん、元気にしてる?鹿屋。
風邪引いてるんじゃないの?』
「はは、わかった?ちょっと熱出て…」
『すぐに寝て』
「つれないなー。雛恵の声が聞きたかったのに」
言葉を交わすことが、何よりの気分転換。
ここ二〜三日は微熱が続いた。
そして今日、その熱が上がってしまったのだ。
それで、彼女の声が聞きたくなった。
病にかかると人恋しくなる。とは、よく言ったものだ。
ここまで自分が弱い人間だったのかと、思い知らされているようで。
それでも、理由をつけて彼女と話が出来ることに、喜んでいる自分もいるのは確かだ。
人間っていうのは随分と都合のいいものだ・と、多方面からの思考が働く。
熱が出るとすることがないから、思考をめぐらす癖がついていた。
朦朧としている頭で考えると、普段では考え付かない事を考え付くから・というのが自身の言い訳でもある。
それを彼女に言えば―変わった趣味だ・と苦笑された。
『ちゃんと休みなさい』
「わかってますー」
諭すような口調。
彼女は長子だから、自然とそうなってしまうらしい。
それに比べて自身は末っ子。
一番上というのが羨ましい、と以前漏らした事がある。
「雛恵」
『何?』
「今日さ、ちょっと…携帯の待ち受け、変えてみたんだ」
『変えたって…一々言わなくても…』
電話の向こうで彼女は、きっといくらか予想を立てているに違いない。
いつの間にか、お互いの思考がわかるようにもなっている。
彼女が立てた予想の中に、これは入っているのだろうか。
少し、わくわくしながらも、落ち着いた声で彼女に告げる。
「待ち受けはきみの写真です」
何となく、彼女の反応がわかったような気がした。
《村上鹿屋&遠月雛江》
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