怪我をしてくるのはいつものことだった。 いつも何処かしらに、怪我を負っていた。 滴る鮮血を、何度拭ったか知れない。 痛みを感じていないはずはない。なのに、それでも穏やかに笑う人だった。 「怒っているか?」 止血のための布を巻くにも、骨が折れた。 女である自分のそれに比べて、その腕は太く剛かった。 ぱっくり裂けた傷からはとめどなく血が流れている。 ぼんやりと思った。神でも血を流すのだ。血が、流れているのだ。 「怒ってなどいません」 「本当に?」 「本当です。貴方は将であらせられるのだから」 戦場に立つこのひとを想像できなかった。 いつも穏やかに笑う人だ。 争いのない穏やかな日には、鮭を片手に訪れる。 戦場に立つこのひとが、どんな顔で争いを見据えているのか、想像できなかった。 「終わりました」 「ありがとう。いつも、世話になるな」 痛々しく巻かれた包帯を気にもせず、火熊は上掛けを羽織った。 いつものように帯を締めなおし、立ち上がる。 「…御方。私はただ、もう少し御身をお大事にしていただきたいのです」 「ありがとう」 戦場に立つ時の表情は知らない。 けれど、自分に会いに来るときは、いつも笑っている。 ぱくりと裂けた傷をこさえていようが、片手に鮭を携えていようが。 その笑顔を、心から愛しいと思っている。 そして彼の人は、戦場に戻るその時でさえ、ほがらかに、笑うのだ。 -------------------------------------------------------- 火月から頂きましたよ。火熊・火乃華話。 やったぜ!って勢いです。 むしろ…あの時の勢いが凄かったです。 あぁ、もげてたね。うん。 またともにもげましょいうぞ(笑) [戻] |