夢の中でそのひとは、優しい目をして笑っている。





        【 やさしいゆめ 】





 不思議な夢を見ることがある。
 やさしい目をしたきれいなひとが、笑っている夢。

 そのひとは何度も夢に現れた。
 毎日の変化の中で、夢のことなんてすっかり忘れてしまった頃に。
 同じひとが、しかも見知らぬひとが、何度も夢の中に現れる。
 違和感はなかった。嫌悪感も。不気味だとも思わないし、怖いとも思わない。
 ただ、そのひとの夢を見た後の目ざめは、現実と夢の区別がつかなくて困る。
 あたりを見回して、そのひとがいないことが不思議でならない。
 ぽっかりと穴が開いたみたいに、空虚な気持ちになる。


 不思議な夢を見ることがある。
 やさしい目をしたきれいなひとが、笑っている夢。
 私たちは言葉を交わさない。
 だから私は、そのひとの名前も、声すらも、知らない。
 なのに何故か、私にはそのひとの考えていることがわかる。
 最初は不思議だった。けれど最近は納得した。「これは、夢だから」


  「 おんしはまっこと優しい子じゃ 」


 やさしい目をしたそのひとは、何の疑いも持ってはいない。
 私にはそれが不思議でならない。
 私にも、汚いところがある。醜いところがある。汚れたところがある。
 私は力なく首を振る。違う。それは違う。

 そのひとは、また笑う。それは、困ったような苦笑。


  「 ほがなことはない 」


 やさしい声。聞いたことのないはずの、知らないはずの、声。

 

  「 おんしの影はわしやき。おんしは光のままじゅうとしょうえい 」



 やさしい声。やさしい目。やさしい微笑。
 私は無性に泣きたくなる。そして泣きながら目を覚ます。
 心にぽっかりと、穴が空く。








 それはとてもやさしい夢。
 そして残酷な夢。

 本当は知っている。


 私があなたを殺している。何度も何度も何度も。





 なのにあなたは私のことを「優しい子だ」という。やさしい目をして、笑いながら。





 それはとてもやさしくて、残酷な夢だ。



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火月からの突発お届けもの。
孔雀とクジャクのお話ですよ。もげですYo!
土佐弁は変換サイトご利用でお願いします…倭樋詳しく分かりません(ゲフ)

素敵にもげーじ上げてくれてありがとう!!
感謝感謝だぁ!!

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