色ことわざDE5のお題 配布元:[VIRTUAL*CUBE]

1:青は藍より出て藍より青し
2:朱に交われば赤くなる
3:柳は緑、花は紅
4:白羽の矢が立つ
5:沈黙は金、雄弁は銀

※日記に載せていたものです。ちょこちょこ手直ししてるので、多少は変わっているかと…。
五つで一つの流れ・のような感じに。








1:は藍より出て藍より青し

「天藍」
月を見上げている天藍の元に葵が来る。
いつもならば括っている髪は、夜ということもあり括られていない。
緩やかな風にその髪がなびく。
「どうしたの?葵」
双子である二人は対称的だった。
特に続けるでもなく、葵が天藍の隣に来、同じ様に月を見上げる。
「…また先生が変わるの」
ポツリと呟いた言葉は少し前にも聞いた言葉だった。
勉学や武術の先生が変わる、それを指す言葉。
「僕もだよ」
「私が教えられる事はもう無いって」
「うん」
「何でだろうね」
「わからない」
わからないなら学べばいいのに。
言外にそう含ませたまま、それを打ち消すかの様に葵は溜め息をつく。
「たまに、考えるんだ」
「…私もよ、天藍」
出生云々は自身達でもよくわからない。
何故ここにいて、多くを学ばなければならないのかも、わからない。
わからないが、今自身の隣にいる人は、間違いなく半身だと何かが告げる。

「いつか僕らは離れ離れになる」
「いつか私達はまた会える」

はっきりとした事はわからない。
でもそうなるという予感はある。
「今のうちにたくさん学ばないとね」
「そうね。それこそ…先生を追い抜くぐらい」
「そうだね。吸収できるものはしようか」
「じゃないと先生が変わる意味もないわ」
「葵は言い切るなぁ」
「天藍は含み過ぎよ」
そう言われて天藍が苦笑する。
葵は変わらず月を見上げていた。
どの位二人でそうしていたのかはわからない。
「そろそろ寝よう?天藍」
眠気が来たのか葵が口を開く。
天藍も同意を示し、互いの部屋に向かって静かに並んで廊下を歩いていく。
また明日と、部屋の前で別れそれぞれの寝台へ潜る。
「青は藍より出でて藍より青し…か」
不意に思い出した、何人か前の"先生"が口にした言葉。
先生より弟子が優れている事をさす言葉だが、何かを含めたものだとあの時、天藍は感じた。
「僕と葵を比べたのか?」
そう考えて、やめた。
葵と比べる事に意味はないと結論付けると、天藍は眠る為に意識を手放そうと努めた。
「青の大地へ…」
あの広大な大地を夢見て、しかしまだその時ではないと考え、天藍は完全に意識を手放した。


あれから幾何か経った頃、天帝が亡くなった。
「僕は行くよ」
ある夜。支度を終えてから葵の元へ向かい告げる。
「私も後から行くわ」
葵も考えは同じだったようで、部屋の隅にその支度がされている。
「また会えるかな?」
「また会えるわ」
それまでしばらくの別れよ、と葵が微笑んだ。


2:朱に交わればくなる

「いいとこね」
天鬼山の、一番高い所から見下ろしながら葵は言う。
吹き込む風が気持ちいいのか、その表情は晴れやかだ。
「オレの山だからな」
「鬼の、でしょ?」
冗談めいた口調で、天下丸の言葉へ付け足す。
事実、天鬼山は鬼の住む場所だ。
今では…鬼の威厳というものが無いと天下丸は口にする。
腑抜けだ、とも。
「私は鬼じゃないけど、いいの?こんな奥まで通して」
天鬼のトリデまで自由に出入しているのが現状ではあるが、鬼達はそんな葵を責めはしなかった。
天下丸がそれを容認しているのもあるが、鬼達は何処か葵を迎え入れている雰囲気もある。
「葵だからいいんだ」
「そう?」
「オレがいいって言ってんだからイイんだよ」
天下丸らしいと、葵が笑う。
本来ならクーロンへ向かわなければならないのだが、少しのんびりする事にしたのだ。
この天鬼のトリデで逆さ吊りになっているのを助けたのは、半身である天藍だ。
彼はクーロンに向かうと言い、途中で天下丸と別れたのを葵は聞いた。
葵はというと、モウケン将軍の所で二度程、天下丸と会っている。
鬼のツノを取り返しに来た時と、捕まっている時の二回。
二度目に会った時、そのまま行動を共にするようになって、今に至る。
「葵は不思議だな」
「何で?」
身長差のせいで、自然と見上げる天下丸と目が合う。
「鬼の中に、自然といる。普通の奴等なら違和感があるのに、葵は無いんだ」
まるで昔からそこにいるように。
それは、天下丸が葵を気に入った理由の一つでもある。
難無く飛び込んできては、いつの間にか馴染んでしまっている。
その順応性が、葵の特徴かもしれないと天下丸は考える。
「そう…かな?」
多少考えて、葵は笑う。
感情をありのままに現す彼女は、輝いているようにも見て取れた。
「じゃあクーロン行く?」
「いいぜ、何処までもついてってやるよ」
腰を上げて、馴染んだ金棒を手にする。
鬼のツノを取り戻すという目的もあるが、純粋に彼女に対して興味もある。
「行こうか、天下丸」
「ああ」
先に会った天藍もそうだ。
他人に興味はなかったが、この二人は随分と色んな意味で面白い。
だから、共に旅をする気になったんだと、天下丸は葵の背中を見て思った。


3:柳は、花は紅

「やっぱり一人より二人だね」
くろゆめ城の中で、天藍がしみじみとしながら口にする。
その視線の先にはヤミの右近がいる。
城の入口で仲間になったばかりだ。
今までほとんど一人で来た天藍としては、ヤミの右近の申し出はありがたいものだった。
「どうした、天藍」
「旅は道連れかな?って」
「……今言うと縁起が悪いぞ」
「……そうだね」
この城の主は怨霊だ。
一歩間違えれば道連れにされかねない。
死してなおその怨念が消えぬとは…人とは恐ろしいものだ。
「おぼろ式部は何がしたいんだろう」
「……さぁな」
眼前の御仁は、件の怨霊を討ち滅ぼすべく旅をしているらしい。
随分と素っ気ない返事しか返ってこなかった。
「生きていれば必ず死ぬものだよ。 その流れがあるから…世界は彩られてる」
あの怨霊はそれから外れてる。
感情を押し殺した声で、天藍が呟く。
「柳緑花紅っていうらしいんだけど」
「私もその線を越えた道を選んだ身だ。何も言えん」
緩やかに右近が振り返り、天藍を見やる。
何かを懐かしむような、それでいて全てを否定するかのような目だった。
二人の間にこれと言った会話は無い。
話している時間よりも、沈黙の方が圧倒的に長かったが、二人は特に気にしていなかった。
「ぼうれいの搭に、カゲ丸について書いてあった壁画があったんだ」
唐突に天藍が口を開く。
「そうか」
右近は短く返してだけだ。
「右近さんはまだ生きてるよ」
天藍の言葉に驚き、目を見開いたヤミの右近が振り返る。
「どうしたの?右近さん」
そう尋ねる天藍にハッとしたのか、ヤミの右近が軽く首を振る。
「人は死ぬんだ。残された人がいても」
「…そうだな」
「そう考えると、生きてる人には残酷だよね」
自然の流れは当たり前のように全てを巻き込んで流れてる。
その中で翻弄されているのは、人だけなのかもしれない。
「……そう、だな」
「…うん」
二人のやり取りはここで一旦切れた。
怨念とも言える独特の空気が溢れている部屋。
城の主である怨霊、ここにいる。

4:白の矢が立つ

「どう?鬼のツノ」
「悪かねぇな」
大都の四辻に現れるというジンズイを対峙した後だった。
ジュウベエの報告を待って、現在は待機中でもあり、休憩中でもある。
かぐらは少し離れた所で、精神統一とかしてるらしい。
「百鬼中将が…」
「アイツが言うなって言ったから、言ってやんなよ」
天下丸の目は何処か寂しげだ。
その百鬼中将から鬼のツノを受け継いで、天下丸はまことの鬼となった。
念願ではあったが、心境は複雑だ。
「天下丸だから、よかったんじゃない?」
「…は?」
傍らにいる葵の、唐突な物言いに素頓狂な声が出る。
「天下丸だから、百鬼中将も…鬼のツノを託したんじゃないの?」
まるで自分の事のように、誇らしく彼女は言う。
その表情が晴々しくて、眩しくて、思わず眼を細めた。
「オレだから?」
「白羽の矢が立ったのよ、天下に」
鬼の中で派手に暴れていたからだろうか。
それだけ目立ったいた…んだろう。
ともかく彼の目に留まったのに違いないのかもしれない。
「それ、まだ持ってたのか?」
「ちょっと…ね」
葵の手には、クンミン村に奉られているリレイの剣がある。
そういえば百鬼中将の所へ行く時も持っていた気がする。
「いいじゃない。ちょっと、あやかってみたかったの」
「リレイにか?」
「うん。だから、天下は知らなくていいの」
そう言い切られ、それ以上の追及は出来なくなった。
仕方ない、今度歴史に詳しい水月か果心居士辺りに聞いてみよう。
葵は一体何にあやかりたいんだろうか。
「…でも最後だけは頂けないなぁ」
「何がだ?」
「ん?」
問い掛けに対し、笑顔を浮かべて葵が答える。
「天下は私が守るわ」
「何言ってんだ。オレが葵を守ってやるよ」
時折、予期せぬ行動を葵は取るから見ていて危なっかしい。
だから、目を離してはいけない気がする。
「お前に白羽は立たせねぇからな」
白羽の矢が立つ。
二つの意味がある事を葵は知ってて言っているんだろうか。
気を抜けば、手の届かない何処かへ行ってしまいそうな奴だから。
「オレから離れんなよな、葵」
「わかってるわ、天下」
笑った葵は、やっぱり眩しかった。



5:沈黙は、雄弁は

風が季節の彩りを運んで来た。
降りしきる桜の雪を肌で感じながら、天藍はそこにいた。
腰にある重さは愛用している剣であり、懐にある物とは違う重さだ。

「いいな」

全てを終えた。
終えたからこそ、また旅を始めた。
この生活の方が性に合っているかもしれないとさえ、最近思う。
あの決戦とも言える戦いの後、特に何も語らなかった。
共に戦った仲間達も、それぞれの生活を送っているはずだ。

「……ここだなぁ」

目の前には、桜の巨木がある。
何度訪れても、その姿に圧巻された。
桜に特別な想いが出来たのも、あの旅からだった。
儚さをそのまま形作ったモノ。
風が止んでも、その雪は降り止まなかった。

「巡ってるのか」

ぽつりぽつりと口から漏れる言葉も、かき消える。
そこにはただ、自然の流れがあるだけだ。
自分という存在は、その中にあるのであって、決して中心ではないのだ。

「青の 意味」

青の大地に生きるもの全てにには、青の意味があるという。
果たして自身の"意味"は何だったのか。
旅を終えた後。
それらを考える事も含めて、またこうして巡り歩いている。
かつての仲間達から時折届く手紙には、あの頃を懐かしんだりする言葉もあった。

「みんな、それぞれやってるんだよな」

青の城はそのままにしてきた。
でっちクンがちゃんとしてくれてる。
この間久しぶりに戻ったら、そのままだったから何処か安心した。
帰る場所だから・と、でっちクンは少し誇らしげにしていた。

「天藍」

振り向いた先には、桜を纏った彼女。
少し息が弾んでいるようにも見えるのは、勘違いなのかもしれない。
それでも、喜んでいる自分がいる。

「久しぶりだね」

言葉をかわす事も、触れる事も一緒にいる事も。
全てが懐かしく思えた。





「空は海を、海は空をうつしてアオくなる」
「どうしたの?」
「僕らの名前の意味。誰かに聞いたよね?」
「そうね。私がいるから」
「僕がいるから」

「「ここにいる」」

満足げに頷いた。
言葉多く語る事も時に必要だけど、僕らには必要ないとも。

「僕の意味は葵がいるから?」
「私の意味は天藍がいるからね」


互いがいるから、生きているんだと、そう感じた。
"意味"は、とうの昔に気付いていた。



=終=

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−−−後書っぽいの。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1:青は藍より出て藍より青し

→天藍と葵。旅に出る前を考えてみたり…。
 うちのサイトでの二人は双子設定でこんな感じ。
2:朱に交われば赤くなる
→葵と天下丸。この二人は好きです。なので偏ります。
 天下丸が葵を気に入った経緯とかが書いてみたかっただけです。
3:柳は緑、花は紅
→天藍とやみの右近。くろゆめ城でそんなやりとりしてればいいな、と。
 何気にこの二人は気が合いそうだと。やみの右近から見れば天藍は、気になる弟分みたいな。
4:白羽の矢が立つ
→葵と天下丸。葵は天下丸を「天下」って呼んでればいい。
 百鬼中将とリレイの関係は確かゲーム中にもちらりとあった気がする…のを引用してみたよ。
5:沈黙は金、雄弁は銀
→天藍と…。最終決戦が終わった後。そんな感じかな?とか。
 「青の意味」についてを少し書いてみたかったんです(逃)